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《異邦人》・『敦煌』
―――久保田早紀さんの《異邦人》にもダルシマーが使われていますね。
あれは出だしとか間奏にダルシマーが少し入ってるだけなんだけど、最初はダルシマー入ってなかったんだよね。
《異邦人》を最初に録音した時、レコード会社がどうしてもOKを出さないもんだから、アレンジャーが僕のところにすっ飛んで来て「なんとかしてください!」って言うわけ(笑)。もうしょうがないからとりあえず曲を確認して、ダルシマーを即興で演奏したんです。
ダルシマーの音っていうのは微量でもすごく性格が強い。だからダルシマーが入っただけでレコード会社のディレクターだとかは違いに気づいてすぐOK出しましたね。
他には、たとえばあのNHK連続テレビ小説『おしん』でもダルシマー使ってんだよ(笑)。音楽担当した坂田晃一とは仲良かったんだけど、テーマ曲の中でダルシマー弾いてますからね。
それから、聴いてもあんまりわかんないかもしれないけど、テレサ・テンのほとんどの曲にダルシマーが入ってます。全部僕が弾いてんだから(笑)。
テレサ・テンはね、ダルシマー見るとホッとするらしいんだよ。自分の国の揚琴(ヤンチン)を思い出すらしくてね。僕をみると割と安心した顔になるんだよね。
あと、ダルシマーが使われてるといったら映画『敦煌』(1988年 東宝 監督:佐藤純彌)。これは大変でしたよ。音楽を担当した佐藤勝さんが
「生明ちゃん、まかせるよ」
って言うんだよね。もうひどいんだよ(笑)。
勝さんと一緒に「電通」の中にある映写室で、まだ音が入ってないフィルムを5、6時間見せられたんだけど、映写室って暗いもんだから寝そうになるんだよね。そうするとスクリプターが「ここに音楽が入ります!」って起こしやがって(笑)。見終わったら勝さんが
「ウイグルのお姫様が出てくるところとかダルシマーでアンタにまかせるから」
“まかせるから”って言ったってさぁ(笑)。
それでレコーディングがオーケストラと一緒でしょ。大変なんですよ。ダルシマーなんて音が小っちゃいから演奏しながら自分で何弾いてるのかわからなくなるんだよね。その中でテンポも合わせなくちゃいけない。だけど後で録音した曲を聴くとみんなびっくりするわけですよ。ダルシマーの音が増幅されてて、やっとどういう音楽だったのかがわかる。
とにかく『敦煌』は大変でした。普通だったらスタジオ行って演奏したら終わりだけど、『敦煌』はフィルムに音が入ってないところから勝さんに付き合ってたからね(笑)。
「生明慶二 インタビュー」
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