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Salida生明慶二インタビュー


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原田甫・伊部晴美・宇都宮安重




 池野成さんと小杉太一郎さんっていったら、お仲間の原田甫さんの音楽録音にも参加することが多かったですね。それで随分お付き合いしましたけど。原田さんもなかなか才能のある人でもっともっと知られていい人なんですよね。わりと早くに亡くなっちゃって、もったいないなぁと思いましたね。

原田甫

原田甫
(1957年3月、小杉太一郎宅ダイニングキッチンにて。写真提供:小杉家)



 原田さんは黛敏郎さんが《金閣寺》っていうオペラを作曲してる時にアシスタントやってましたけど、その後ぐらいからは伊部ちゃん(伊部晴美)が黛さんのアシスタントしてたんです。
 『題名のない音楽会』で演奏する作品のオーケストラ編曲を伊部ちゃんがほとんどやってましたよね。『題名のない音楽会』は曲も多いし、新聞紙ぐらいの大きさの五線紙に書くわけだから大変ですよ。まぁ、伊部ちゃんは早書きだし、ずいぶんオーケストラの勉強になったでしょうからそういう意味ではすごく良かったですよね。
 黛さんは伊部ちゃんを非常に頼りにしてました。伊部ちゃん死んだ時、黛さんに知らせなかったら怒り狂ってたけどね。



―――伊部晴美さんはどのような方でしたか。


 伊部晴美さんてのはね、もともとギター奏者だったんです。超一流の腕前ですよ。ものすごく上手い。

 ある時、伊部ちゃんは『破れかぶれ』(1961年 日活/監督 蔵原惟繕)っていう映画で佐藤勝さんと連名で音楽を担当するんです。

 あれはねぇ、最初、勝さんが「伊部ちゃんに書かせよう!書かせよう!」って言い出して(笑)。初めてで心配だっていうんで勝さんと連名でやったんだよね。で、終わったら「あぁ、もう伊部ちゃん大丈夫だ」って勝さんが太鼓判を押して、伊部ちゃんは曲書きとして独立したわけですよ。

 でもねぇ、あれだけのギターを弾くってのは誰にも出来ないですよ。ちょっとやそっとじゃ出来ない。伊部ちゃんほどの人がなんでギター弾かないで曲ばっかり書くんだろうって僕は内心思ってました。

 武満徹さんの《スタンザ I》(1969)っていう曲は伊部ちゃんに献呈されてるんですよね。
 初演を聴きに行ったんだけど、角刈りなんかしてる伊部ちゃんがタキシード着て弾いてるわけでしょ。まったくガラが合わないんだけど(笑)。だけどね、見事に弾いてましたよ。長い間その曲は伊部ちゃんしか弾けなかったって話ですよね。

 伊部ちゃんの同級生っていう人がいて、その人を「一緒に中国に連れてってやってくれ」って頼まれたから「良いよ。連れてってやるよ。そのかわり山奥に入ってくよ」って言って、その時に食事したのが伊部ちゃんと会った最後だったですね。

 才能あった人ですねぇ。もったいない人だったですね。ギター弾きだけでやってたら本当にすごかったと思いますね。

作曲家 小杉太一郎(左)と伊部晴美(右)。

作曲家 小杉太一郎(左)と伊部晴美(右)。
(写真提供:小杉家)



 僕が、やっさん(宇都宮安重)に会ったっていうのも間に伊部ちゃんが関わってるんですよ。

 銀座の並木通りに「チェリー」って店がありましてね。「チェリー」は後に「コパカバーナ」っていう赤坂の超一流ナイトクラブになるんですけど、そこに伊部ちゃんが曲書きになる前からギター弾いててずいぶん長くいたんですよ。その伊部ちゃんの横でピアノ弾いてたのが宇都宮安重さんなんです。それにあとベースが一人いて、三人で組んでやってましたねぇ。
 僕は彼らがやってるバンドの代わりでたまにその店で演奏したりしてたもんだから、そのうち伊部ちゃん達と顔見知りになって、やっさんとも一緒にやったりしたんですよ。

 伊部ちゃんはスタジオ・プレイヤーをはじめたのが早かったから、僕もそういう世界を伊部ちゃんに教わったんですよね。

 やっさんとはね、いろんなことやってましてね。
 仲の良い奇術師がいて、手品をやってる時のBGMをやっさんと二人で演奏したりね。もうスタジオ・プレイヤーになる前からの友達ですからねぇ。
 だから、やっさんから「小杉太一郎さんの弟子になった」って話を聞いた時も「あぁ、よかったねぇ」って言ってたんですよね。

宇都宮安重

宇都宮安重
(写真提供:宇都宮誠)



 あの頃はねぇ、僕と伊部ちゃん、あと黛敏郎さんの三人でよく遊んでたんですよ。三重県の鈴鹿サーキットでやる「第一回日本グランプリ」決勝レース(1963年)を見ようじゃないかってことになって、三人で鈴鹿まで行ったりなんかしてましたよ(笑)。

 だから黛さんとも古いんですよね。もういつ頃だったか忘れちゃうぐらい古いんだけど(笑)。






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