Salida・CD『早坂文雄と芥川也寸志の対話』は、好評をもって迎えられた。
作曲家 早坂文雄がこの世を去る5ヶ月前に行われた、芥川也寸志を訊き手とする東京交響楽団機関誌『シンフォニー』の取材に際し、当時まだ珍しかったテープレコーダーを購入していた早坂は、この模様を録音。
その後、録音テープは『シンフォニー』編集長をつとめた音楽評論家 秋山邦晴によって保管され、秋山邦晴夫人のピアニスト 高橋アキさんとSalidaが御縁を得たことを契機に『早坂文雄と芥川也寸志の対話』としてCD化に至った。
これまで限られた資料を頼りに検証が重ねられてきた中での肉声録音の発見により、改めて「作曲家 早坂文雄」への関心が高まったことは、CDにたいする反響からも明らかだった。
―――肉声録音の次は、早坂文雄の音楽作品をかたちにしたい。
そう思い立つのは、CD制作者としてごく自然の成り行きである。しかし、CD化に値する早坂文雄作品が演奏された機会などそう簡単にあろうはずが―――
―――あった。
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東京交響楽団公演「現代日本音楽の夕べシリーズ 第18回 早坂文雄 没後60年コンサート」。
文字通り、作曲家 早坂文雄の没後60年にあたる2015年10月に開催された東京交響楽団公演で、黒澤明監督作品『羅生門』の映画音楽《真砂の証言の場面のボレロ》、アニメーションと実写の結合による独自な表現を用いた“造形技術映画”のために作曲された《交響的童話「ムクの木の話し」》、そして純音楽作品の遺作となった《交響的組曲「ユーカラ」》、これらの早坂文雄が遺した重要な作品が、このコンサートで演奏されている。
しかし、すでにコンサートから10年近く経過した現在、本公演の録音は果たしてあるのか―――
―――あった。
僭越ながらSalidaと東京交響楽団のお付き合いは長い。
2011年、Salidaは東京交響楽団の演奏による小杉太一郎 作曲《カンタータ 大いなる故郷石巻》(1973)初演音源をCD化。そして、これを契機に金山茂人さんとの御縁が生まれる。
現在、東京交響楽団最高顧問・評議員長、日本演奏連盟常任理事、日本オーケストラ連盟副理事長でいらっしゃる金山さんは、《大いなる故郷石巻》初演当時、ヴァイオリン奏者として東京交響楽団に入団されており、後に楽団代表を経て楽団長として30年に渡り東京交響楽団の発展に寄与されてこられた日本音楽界の伝説的存在である。
日本音楽界の伝説的存在・金山茂人氏
《大いなる故郷石巻》CD制作にあたっては、金山さんに初演時のお話をうかがわせていただいた他、初演に携わった音楽家への許諾確認、CD発売の宣伝・告知などに多大な御力添えを賜った。
爾来、金山さんはSalidaの活動を気にかけてくださり、その後、Salida制作CD 『小杉太一郎の純音楽』『山内正の純音楽』に東京交響楽団の演奏を収録させていただくなど、重ねて僭越ながらSalidaと金山さん・東京交響楽団との御縁は今日に至るまで続いている。
突然の問い合わせにもかかわらず、東京交響楽団事務局は10年近く前のコンサート記録について真摯にご対応くださり、公演録音は発見に至った。さらにコンサートの指揮をつとめられた大友直人氏へCD化許諾確認を行ったところ、
「是非、CD化してください」
と御快諾を賜ることが出来た。
こうしてSalida・CD『早坂文雄の音楽』制作が正式に決定したのである―――
―――ひとつの問題を残して。
※
発見された録音は、CD化を前提としてレコーディングされたものではなく、記録音源だった。会場ノイズなどが入り込んでいる箇所を差し替えようとしてもリハーサルを録音した別テイクは残されていない。そして何より、記録音源をSalida初の早坂文雄作品集CDに相応しいハイクオリティ・サウンドへ昇華させられるのかが最大の問題だった。この大問題の解決の糸口などあろうはずが―――
―――あった。
「ソニー・ミュージックスタジオ」チーフエンジニア 鈴木浩二氏。
Salida・CD『小杉太一郎の純音楽Ⅱ』『伊福部昭の純音楽』『黛敏郎の雅楽 昭和天平楽』のマスタリングは鈴木氏によるものであり、その見事なハイクオリティ・サウンドは大変な好評を博している。
もちろん今回のマスタリングも鈴木氏にお願いし、ハイクオリティ・サウンド実現に向け検討を重ねた。結論は―――「やってみるしかない」 であった。
東京・赤坂のソニーミュージックスタジオ・第1マスタリングスタジオ。
“いかに加工せずナチュラルなかたちで良いサウンドに仕上げるか”この禅問答のような方針のもと作業は開始された―――立ち会いは私一人。
私は鈴木氏に「作曲家 早坂文雄」の特質や各作品の成立経緯について思いつく限りのことを伝えた。作業中に迷惑千万なことだが、作品の特性と演奏のすばらしさを活かすサウンド作りにはとても参考になるという。鈴木氏は静かな微笑みを浮かべながら、しだいにエキサイトしていく私の話に耳を傾け作業を続けた―――
―――しばしの沈黙。
私はうなずき、鈴木氏にOKを出した。かつてない白熱のマスタリングを終え、私と鈴木氏は熱い手応えを感じていた。
鈴木浩二、出口寛泰
マスタリング作業
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こうして多くの方々の御協力により、Salida初の早坂文雄作品集CD『早坂文雄の軌跡』が完成した。
すべてのはじまりは作曲家 早坂文雄の御次女・北浦(早坂)絃子様がCD制作を御快諾くださったおかげであり、この寛大な御厚意に敬意を表し、深く深く感謝を申し上げます。
また、大友直人様、鈴木浩二様をはじめ、Salida・CD『早坂文雄の軌跡』制作に御賛同・御尽力賜りましたすべての皆様に心より御礼申し上げます。
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CD「早坂文雄の軌跡」収録内容
作曲家
早坂文雄 略歴
早坂文雄・芥川也寸志の一年
Salida制作CD