黒澤明監督作品『羅生門』『七人の侍』、溝口健二監督作品『雨月物語』『山椒大夫』などの映画音楽や数々の純音楽作品を手がけたことで知られる作曲家 早坂文雄。
1955年10月に41歳で急逝した「作曲家 早坂文雄」についての資料は、その音楽作品や執筆文章、生前交流のあった人々の証言・記録などがこれまで主なものであり、いまだその実像はつかみきれていませんでした。
そのような中、Salida活動により、早坂文雄が作曲家 芥川也寸志を訊き手に自身の音楽観、芸術論、映画音楽、伊福部昭 などについて語る肉声録音が発見されました。
早坂文雄がこの世を去る5ヶ月前の1955年5月。
音楽評論家 秋山邦晴が編集長を務める東京交響楽団機関誌『シンフォニー』の「早坂文雄特集号」のために芥川也寸志を訊き手とする取材が早坂邸で行われ、それは後に芥川の筆により『シンフォニー』1955年No.12誌上に「早坂さん今日は!」と題してまとめられました。
この数ヶ月前に当時まだ珍しかったテープレコーダーを購入していた早坂文雄は―――この取材の様子を録音していたのです。
1970~80年代、秋山邦晴は早坂の遺品確認・調査のため頻繁に早坂家を訪れ、この録音を含む資料の貸し出しを申し出ました。以来、録音は秋山宅で保管されることとなります。
秋山邦晴夫人であるピアニストの高橋アキさんは、僭越ながらSalidaの活動を以前より応援してくださっており、この御縁が本録音の発見へと結実しました。
「早坂さん今日は!」の文章は、取材記録を一言一句忠実に活字化しているわけではなく、大意をまとめて読み物として昇華したうえで記述されているため、発見録音の早坂文雄の発言などに既読感を感じることはほとんど無く、むしろ「早坂さん今日は!」よりも豊富な話題について語られる言葉の数々は、新鮮な感動を与えます。
日本を代表する二人の作曲家によって展開される対話は、そのままの状態で充分聴取に耐え得る文化的示唆に富んだ内容であり、間違いなく多くの方々に聴いていただくべき録音であることを確信したSalidaは、本録音のCD化を立案。
両作曲家の御遺族である芥川眞澄さん、北浦(早坂)絃子さんからの制作許諾、 高橋アキさんからの制作協力をいただき、早坂文雄と芥川也寸志の肉声による歴史的対話の世界初CD化を実現しました。