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奥平 一 氏 インタビュー

【池野成 作曲《ラプソディア・コンチェルタンテ》】

作曲家 池野成
撮影:Salida(1998年)

作曲家 池野成 略歴



 ―――奥平さんが初めて池野先生にお会いになられたのはいつ頃ですか。


 私が新交響楽団にいた時に芥川也寸志先生の指揮で伊福部先生の《日本狂詩曲》を演奏したことがあって(1982年9月15日、第97回演奏会)、その時には伊福部先生がいらっしゃったんですけど、池野先生も御夫妻で聴きに来てくださったんですよ。
 その頃、新響は演奏会が終わると上野の「とんかつ武蔵野」っていうお店に集まってみんなでワアワア宴会をやってたんです。芥川先生は「またとんかつ屋かぁ」ってよく言ってらっしゃったけど(笑)。そしたらそこにも伊福部先生と池野御夫妻がみえたんですね。その時に初めて池野先生とお話させていただきました。だけどなんだか恐れ多くてほんとに御挨拶程度ぐらいしか出来なかったですね。

 その後、新響で伊福部先生の「古稀記念演奏会」をやって、その時はご存知のように《日本の太鼓》でお弟子さん達みんなが太鼓を叩いたんですけど、その中に池野先生もいらっしゃった。でも非常に寡黙な方ですから、その時はもう御姿を拝見するぐらいでしたね。
 とにかく腰が低くて、紳士で、お会いするといつもネクタイをしめていらっしゃるような印象ですね。お話の仕方でもある意味余分なことはおっしゃらない方ですし。

 私と池野先生とのお付き合いっていうのは、もう本当にその程度で終わってしまっているんですよね。今思えば非常に残念ですけど。
 ですから池野先生のことは、こちらのSalidaホームページの例えば小倉啓介さんのロングインタビューを拝見して、お人柄ですとか作曲家としての一面を知ることが多いんです。それにしてもあのインタビューは本当に強烈で(笑)。

 池野先生の純音楽作品は、有名な《EVOCATION》ですとか代表的な作品は録音などで聴いていましたけど、私の場合、生で直に池野作品の数々に接した機会は、2006年に開催された「池野成メモリアル・コンサート」なんです。
 あのコンサートにはオーケストラ・ニッポニカが参加協力して池野先生の映画音楽を演奏したり、私もスタッフとして参加していたのでリハーサルなど含めてどっぷり池野作品にひたりました。



―――オーケストラ・ニッポニカは、今回の《ラプソディア・コンチェルタンテ》以前に「第14回演奏会〈東京交響楽団の1950年代〉」(2008年11月30日)で池野先生作曲の《ダンス・コンセルタンテ》を取り上げていらっしゃいますが、これはどのようないきさつなのでしょうか。


 まず念のため誤解の無いように申し上げるんですけど、オーケストラ・ニッポニカの企画というのは、あくまで合議制で決定されるものなんです。例えば私が何かアイデアを出してもなかなかみんな「うん」とは言わない。それでこちらもどういうかたちでアイデアを出していけば受け入れられるのだろう、という具合にいろいろ鍛えられるわけですよね。そんな風に切磋琢磨して最終的にみんなで企画を決定しているんです。
 そういう中で、常に私の頭の中には演奏候補としてインプットしている作品がいくつかあるわけですよ。それがどういう企画で実るかはわからないけれど。そしてその演奏候補作品の中に池野先生の舞踊曲《作品七番》があったわけです。

 「作品七番」は、舞踊家の江口隆哉さんが池野先生に音楽を委嘱した舞踊作品ですが、これを近代日本舞踊史の観点から見ると、ものすごく評価のある作品なんだということがわかる。本当に革新的な舞踊作品として、近代日本舞踊史の舞踊表やその他の資料に必ずその名前が出てくる。だからといって、それが音楽的にも優れているということに必ずしも直結するわけではないんですけれど、それでも舞踊という総合芸術の中で評価が高いにもかかわらず、これまでその音楽はまったく知られていない状態だった。
 
 あと、ご存知のように舞踊曲《作品七番》は、初演を指揮した上田仁さんからの委嘱で三管編成に改訂されて《ダンス・コンセルタンテ》となり東京交響楽団定期で演奏されます。これは御自身が初演されたということもあるかもしれませんけれど、同時にその世間の評判とか評価を考慮したうえで上田さんは「この音楽を定期演奏会に乗せよう」と決心なすったんじゃないかと思うんですよね。そういう意味で《ダンス・コンセルタンテ》は上田さんの評価がはたらいている作品だと思うんです。

 まあだけど演奏してみたら「ストラヴィンスキーそのまんまじゃないか」という部分もあるんですけど(笑)。でもあそこに後々池野先生のオーケストレーションの特徴につながるところがあったりして、やっぱり重要な作品だと思いますね。
 ですから私としては例えば「舞踊」をテーマにした演奏会を考えるようなことがあった時に《ダンス・コンセルタンテ》は演奏候補として挙げなきゃいけない作品なんじゃないかという頭がずっとあったわけです。

 そうしたところが、ニッポニカの第14回演奏会のテーマが〈東京交響楽団の1950年代〉となって、《ダンス・コンセルタンテ》は条件がまさに合致するので取り上げる運びとなりました。



 ―――そもそも「オーケストラ・ニッポニカ 第25回演奏会」(2014年5月11日)では、なぜ池野先生の《ラプソディア・コンチェルタンテ》を取り上げられたのでしょうか。


 ええ、それには理由がいくつかあるんですよ。
 少し前後しますけど、先にお話した池野先生のメモリアルコンサートを準備している時に池野先生のヴァイオリン・コンチェルトが存在するってことはすでに頭にあって、唯一のオーケストラの純音楽作品ですし「演奏するならこれでしょう」とその時提案したんですよね。
 それで譜面を拝見してみたら、まず編成が三管編成で打楽器はたくさん必要だしとても無理だと。あと音楽的にもこれはちょっとやそっとのリハーサルで演奏出来るものじゃないってことで即刻あきらめたんです(笑)。でもそのことがあったから逆にヴァイオリン・コンチェルトのことがずっと頭に残ったんですよね。それが一つ。

 それからこれは演奏会のプログラミングの考え方の話になるんですけど、「第25回演奏会」が行われた2014年は伊福部先生の「生誕100年」がもちきりの年で、演奏会もそのことを意識して企画された。ですけど、だからといって伊福部先生の作品だけをやるんじゃなくて、もっと多面的に伊福部先生をとらえた演奏会はできないか、というコンセプトでプログラミングを行ったんですよ。

 そうするとまずアレクサンドル・チェレプニンの作品ってどこもやらないじゃないかと。伊福部先生といったらこれだけ語られている作曲家がなぜこんなに演奏されないの?ってことですよね。それでチェレプニンのシンフォニーを入れた。

 それから伊福部先生のお弟子さんを、ということになるんですけど、ある意味メジャーというか有名な方になればなるほど伊福部先生との関係がすでに語られていて、変な言い方ですけど新鮮味が無いわけですよ。字面だけ見ても例えば「伊福部昭と芥川也寸志」「伊福部昭と黛敏郎」「伊福部昭と松村禎三」、もうどっかで見たような印象があるでしょ(笑)。かといって、その他のお弟子さんの方々になると、今度はどんな作品があるのかわからなかったり、正直なところインパクト的にどうなのか、ということがあって、取り上げるにしてもまた他の機会だよね、となる。

 そういう中で、もちろん池野先生も伊福部先生との関係はすでに語られているわけですけど、今こそあの《ラプソディア・コンチェルタンテ》でしょと。演奏曲目として「伊福部先生のシンフォニーと池野先生のヴァイオリン・コンチェルト」この組み合わせはこれまでまったく無い。そういう風に発想したわけです。

 それともう一つの要因が、これまで何回もニッポニカのゲスト・コンサートマスターを務めてくださっているヴァイオリニストの高木和弘先生。私たちの活動に本当に心から賛同してくださって参画していただいているんですけど、その高木先生が以前NAXOSから出た作曲家 大栗裕CDの《ヴァイオリン協奏曲》でヴァイオリン独奏をされているんですね。レコーディングだけじゃなくて実際のコンサートでも演奏されているんですけど、そうこともあって、常々高木先生が「機会があったらニッポニカでも大栗さんの《ヴァイオリン協奏曲》を演奏して欲しい。是非ヴァイオリン独奏をやりたい」とおっしゃっていたんです。我々も色々とその機会を考えていたんですけど、それじゃあ大栗さんではないけれど、池野先生のヴァイオリン・コンチェルトの独奏を高木先生にお願いしようよと。そしたらもう大喜びで高木先生も引き受けてくださって。これも非常に幸運なことでしたね。

 高木先生は、ニッポニカで《ラプソディア・コンチェルタンテ》を演奏された後、プロのオーケストラへ行ってはこういう池野先生のヴァイオリン・コンチェルトがあるんだとお話してくださっているんですよ。ところが音源がないでしょ。やっぱりプロのオーケストラっていうのは、どこにいっても音源が無い作品はなかなか受け入れていただけないんです。
 そういう意味でも今回のCD化は高木先生も大変喜んでくださってますよね。



 ―――《ラプソディア・コンチェルタンテ》を演奏されて作品にたいする反応はいかがでしたか。


 第25回演奏会には本当に多方面からいろんな方が聴きに来てくださったんですけど、池野先生の《ラプソディア・コンチェルタンテ》については、直接聞こえてくる感想やアンケートで、とにかく「驚いた」という方がとっても多かったですよね。こういう作品があったのかと。

 それから、これはオーケストラ側のこととして、ニッポニカでは本番で振られるコンダクターとのリハーサルの前にトレーニングも含めて指導してくださる方をお招きして練習をするわけなんですけど、もうね、池野先生の作品をどう振っていいのかわかんない。つまり、オーケストラ・コントロールしていくのに非常にトリッキーなんですよね。

 これは非常にシンプルな例ですけど、

ラプソディア・コンチェルタンテ楽譜


 「4分の5」と書いてはあるものの、アクセントということで考えると池野先生が点線で区切っているように「8分の2」「8分の3」の繰り返し、つまり変拍子なんですよね。ここを指揮者が「4分の5」と勘定して指揮したとしても、音楽としては「8分の2」「8分の3」の繰り返しとして演奏しなさいよ、ということを池野先生はたぶんおっしゃっているんです。これは単純にこのひと固まりだけの話ですけど、こういったことが2重、3重に出てくるところがもう随所にある。そうするとそのポイント、ポイントでいったい誰にとって見やすい棒を振るかということが非常に課題になる曲なんですね。リズムの構築の仕方をはじめとしてとにかく難しい。

 あと、曲の内容で話題になったのが、この作品の後半は打楽器群の響きを中心としてリズミックに速く展開していくんですけど、その後半部に入る前にゆっくりとした非常に妖艶である意味“エロティック”といってもいいような部分、私が勝手なイメージで「夜の音楽」と呼んでいるところがある。池野先生がいらっしゃったら「『夜の音楽』なんかじゃないよ!」っておっしゃるに違いないんですけど(笑)。あそこのあの妖艶さっていうのは他の作曲家には無いよね、ということはリハーサルの時からオーケストラのみんなが語りあってましたよね。
 それは他のトリッキーな部分との対比でより際立って強烈な印象になっているんだろうと思うんですけど、池野先生はやっぱりそういうことを徹底的に考慮したうえで作曲なさっている。

 実際に演奏することによって《ラプソディア・コンチェルタンテ》という作品の独自性を改めて実感しましたね。




奥平 一 氏 略歴



池野成 作曲《ラプソディア・コンチェルタンテ》収録CD
EXTON・OVCL-00583 発売記念インタビュー




作曲家 池野成 研究活動




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