1933年、ドイツのマリー・ウィグマン舞踊学校において、先進的ドイツ流モダンダンス=ノイエ・タンツを学んだ後、数多くの名作を生み出し日本の洋舞界に新風をもたらした舞踊家
江口隆哉。
江口は、その活動の中で日本各地の郷土舞踊をもとにして、民俗的ヴァイタリティとフレッシュな感覚に富むシリーズ作品の創作を思い立つ。まず最初に岩手県江刺郡稲瀬村鶴羽衣(つるはぎ)で伝承される「鹿踊り」に取材した『日本の太鼓《鹿踊り》』(1951)を発表。以後、このシリーズには日本の郷土舞踊のほとんどが太鼓をもとに発生していることから、総見出しに「日本の太鼓」と冠せられた。
続いてシリーズ第2作『日本の太鼓《狐けんぱい》』(1960)が創られたが、この前記2作の音楽は小杉太一郎の師である伊福部昭が作曲した。ちなみに小杉は《狐けんぱい》初演の際にオーケストラの指揮を務めている。そして、シリーズ最終作となった第3作が『日本の太鼓 第三輯《綾の太鼓》』(1963)であり、その音楽は小杉が作曲した。
江口自身が記した『日本の太鼓 第三輯《綾の太鼓》』のテーマを引用する。
「能の「綾の鼓」による作品である。高貴の女性を恋した菊作りの男に、綾絹を張った鳴らない鼓を与え、鼓が鳴れば恋をかなえさせようという。愚直な男は、懸命に打つが鳴るわけもない。はては鳴ったような錯覚をおぼえ、狂乱して鼓を打ちながら池の底に沈んでいくというのが原作で、はじめは「綾の太鼓」となっていた。池の底に沈みながら打った太鼓の音は、菊作りの男にとっては、天にもひびくかに思われたことであろう。わたくしは、その男になりかわって、太鼓の音をとどろとひびかせてあげたい。それがこの作品のテーマである。」
作品は、オリジナルの『綾の鼓』を本編への導入としてあつかい、以降はその設定を引き継ぎつつも、日本の民俗芸能の中にある多種多様な太鼓踊りの技法に基づく舞踊が展開される。まさに日本の様々な郷土舞踊の母体である「太鼓」そのものに焦点をあてたシリーズ最終作にふさわしい内容となっている。
小杉の音楽は、このような作品の意図に沿って、大太鼓、中太鼓の和太鼓をはじめ、能楽で使用される締太鼓、はては名前に「太鼓」とは付くものの膜面打楽器ではなく、古銭の触れ合う音でリズムを刻む民俗楽器「銭太鼓」、キューバの打楽器キハダ、Sistro(神楽鈴)、チャッパ等々を導入した多彩な楽器編成で本編を彩る。
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CD「小杉太一郎の純音楽U」収録作品(1)
《交響楽》
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作曲家 小杉太一郎 研究活動