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「郷 愁」

 交声曲“大いなる故郷石巻”の草稿を手に石島恒夫氏が私の家に見えられたのは今年の始め、未だ正月の門松もとれぬ頃だった。
 故郷の祝典のために書き綴られた石島氏のそれは、石巻の遠い歴史、美しい景観を実に明解な詩をもって唱い上げ、彼の故郷石巻への愛情の深さをひしひしと感じさせる立派なものだった。
 彼のひた向きな情熱に私は打たれながら、約半歳有余に渉る私自身の能力の結集と苦しい戦いが始まったのです。
 現代の複雑な社会に対応するために一番必要な神経の図太さを私は悲しいことに持ちあわせがないので、故郷の祝典のためという心理的な重圧感に、ただでも遅い私の筆はますます遅くなり、各方面の方々へ大変御迷惑をおかけした事をお詫び申し上げます。
 この作品のみに没頭することが許されない私の作曲生活ではあっても、運転する自動車の中でも、ふと幼ない頃遊んだ長浜の砂を思い出し、裏の田ん圃で、“たっぺはしり”に興じた冬休みを思い、のど自慢の祖母がよく唱ってくれた“さんさ時雨”“餅つき唄”そして馬に乗って長持唄にゆられながらお嫁に行った従姉のことなど。とどまる事のない石巻への郷愁は、私の脳裡から消える事は出来ないでしょう。
 そして又、今日この会場に見えた人々が、何十年後の石巻の人々へ石巻の輝やか
しい歴史を伝え、深く遠い足跡を残し“大いなる故郷石巻”に一段と重厚さを加えて行く事を信じます。

小杉太一郎「郷愁」
小杉 太一郎

(石巻市制40周年記念公演プログラムより転載)





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