彼の指揮棒にかかれば音楽がピッタリと画面に合う……
映画音楽指揮の第一人者 吉澤 博
戦後活躍した映画音楽の指揮者には吉澤博(松竹・日活)の他、森田吾一(東映・大映)、清田茂(東宝・新東宝)がいた。映画音楽の指揮者は演奏を場面の長さや台詞と画の動きに合わせる基本技術の他、問題が生じた場合は作曲家と監督、演奏家、録音技師の間に入り潤滑油的な役割を果たし、時にはテンポの変更や一部をカットまたは反復して長さを調節するなど解決策を提案、予定された時間内に録音を終えるよう録音現場をリードした。
自ら指揮をとる作曲家もいるが、多くの作曲家は短い期間で作曲をしいられ疲労困憊の状態で録音当日を迎えることが常であった。作曲家は映画の録音に精通した吉澤のような指揮者に代理を依頼(業界用語で代棒という)することで、自身は調整室で演奏の不備や録音上のバランスの修正に専念することができたのだ。
吉澤博は若い作曲家の起用にも尽力した。黛敏郎、山本直純、齋藤高順、鏑木創、松村禎三、池田正義、原田甫、眞鍋理一郎といった才能が映画音楽で活躍した陰には吉澤の存在があった。
【吉澤 博 略歴】
明治41年2月25日 茨城県水戸に生まれる。旧制水戸中学を卒業。
昭和7年3月 武蔵野音楽大学卒業。
昭和9年4月 松竹歌劇団の音楽担当(作曲)
昭和20年10月 大船撮影所へ移籍、以降、松竹、日活を中心に各社の映画音楽の録音で指揮者として活躍。手掛けた映画は劇映画、記録映画をあわせ約3,000本。
昭和25年 松竹映画「帰郷」の音楽を当時新進の黛敏郎と連名で担当、第5回毎日映画コンクールの音楽賞を受賞。
昭和60年(1985年)9月8日 死去 享年77。
●レコード向けに録音された映画音楽
・小津安二郎名作映画音楽集 秋刀魚の味 彼岸花(1972年 日本クラウン 音楽:斉藤高順)
・犬神家の一族(1976年 ビクター音楽産業 音楽:大野雄二)
・日本の首領(1977年 ワーナー・パイオニア 音楽:黛敏郎)
・人間の証明(1977年 ワーナー・パイオニア 音楽:大野雄二)
・野生の証明(1978年 日本コロムビア 音楽:大野雄二)
●ポピュラー音楽
・BOB SINGS BOB ボブの気ままな暮し(ボブ佐久間 DENON)
・幻想組曲 日本(編曲:青木望 日本コロムビア)
■参考文献:
・季刊 映画宝庫 サントラ・レコードの本「対談 日本映画音楽の現場から 吉沢博+河野基比古」(1978年 芳賀書店)
・ヨッちゃん 吉澤博さんの思い出(1988年 吉澤博氏追悼文集 発行:吉澤博さんの思い出編集 委員会)
・日本の洋楽2(1987年 新門出版社 著者:大森盛太郎)