
2014年5月11日(日)東京四谷・紀尾井ホールにて行われるオーケストラ・ニッポニカ第25回演奏会で池野成 作曲《RAPSODIA CONCERTANTE》が演奏されます。
「これ、初演してから誰も演奏してくれないんですよ」
生前、池野先生は本作品のスコアを見ながらしみじみとそうおっしゃっていましたが、この度、放送初演から31年の時を経て「没後10年」に甦ることとなりました。

第25回演奏会で指揮をされる阿部加奈子さんを迎えての初リハーサルにお邪魔させていただきました。

今回、ヴァイオリン独奏をつとめられる高木和弘さん。

高木 和弘 氏 略歴

高木さんにお目にかかるのは小杉太一郎 作曲《弦楽三重奏の為の二つのレジェンド》レコーディング以来。

《RAPSODIA CONCERTANTE》前半に頻出する、金管群のドローンと共に出始めグリッサンドをかけて弦が刻み続ける動機は、映画『雁の寺』(1962年
大映京都/監督 川島雄三)で使用されたテーマと同一のもの。
雁の襖絵で名高い京都の禅寺を舞台とする水上勉の同名原作を舟橋和郎と川島雄三が共同脚色し映画化した『雁の寺』の音楽は、ジャズが鳴る一箇所を除いて、このひとつのテーマが劇中の七箇所で使用されるというものです。
映画の音楽にまったく注文を出さないのが常だった川島雄三監督が、『雁の寺』の音楽打ち合わせの際には、ひとつのテーマだけでいいこと、そして
「モーツァルトの《レクイエム》のようなものが欲しい」
と発言。この言葉を聞いた池野先生は
―――あー、言ったね。この人は……。
と吃驚仰天し、自分では音楽はまったくわからないと言っていた川島監督が其の実とてもよく音楽を理解していることを感じたとのことでした。
もちろん『雁の寺』にモーツァルトの《レクイエム》そのものの響きは合わないため、池野先生は「“精神のうえで“モーツァルトの《レクイエム》のような……」と解釈し「レクイエム」を「挽歌」という意味に受け取って、このテーマを作曲されました。
『雁の寺』の音楽については池野先生自身「割合妥協しないで出来たという満足感がある」と語っており、また、筆者の
「このテーマは“声明”ですか?」
という質問には
「“声明”というより“お経”の方がニュアンスが近いですね」
とおっしゃっていました。
「これまで研究し育んできたアジアの音素材により作曲」されている《RAPSODIA CONCERTANTE》には、この“お経の動機“が活かされているのでした。





かれこれ10年以上のお付き合いになる門倉百合子さんと奥平一さん。御二人をはじめオーケストラ・ニッポニカの皆様にはこれまで大変お世話になっています。この場を借りて心より御礼申し上げます。

阿部 加奈子 氏 略歴
指揮者の阿部加奈子さんは東京藝術大学で永冨正之先生に作曲を師事された後、師と同様にフランスで学ばれました。
フランスを中心に存在する「スペクトル楽派」の作曲家についても精通されている阿部さんが、池野先生の《RAPSODIA CONCERTANTE》をどのように指揮されるのか演奏会当日が本当に楽しみです。

池野成 没後10年 Salida企画
池野成 研究活動