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椎名慧都Salidaインタビュー


椎名 慧都 氏 略歴



(2)



―――今回、映画『カツベン!』にはどのような経緯で出演されることになったのでしょうか。


 私が活動写真弁士の片岡一郎さんの公演を観に行った時に、たまたま周防正行監督もいらしていたんですね。その時に片岡さんが山野一郎と小杉勇の曾孫で今は俳優座にいると、私のことを周防監督に紹介してくださったんです。
 片岡一郎さんに初めて出会ったのは私が高校生の頃でした。初めて片岡さんの説明を拝聴した時の感動は今でも鮮明に覚えています。
 この様なご縁を継いでくださったこと、本当に有り難く思っています。また同じ作品でご一緒できたということ、とても嬉しく思っています。

 それをきっかけに映画の中で上映される無声映画『火車お千』の“お千”役のお話をいただきました。無声映画の時代には歌舞伎役者さんとか舞台の役者さんが映画に出ていたので、『火車お千』は当時の雰囲気を出すためにも舞台をやってる人がいいんじゃないかと思われたそうなんです。私はむしろ映像はほとんど経験がなく舞台が多かったのですが、周防監督が「舞台と別になにかを変えようとしなくていい」と言ってくださったおかげで、自由にお芝居をやらせていただきました。

 『火車お千』の撮影は京都の太秦でおこなわれました。劇団の先輩から「京都の撮影所は色々な厳しいしきたりがある」って聞いていたんですけど、行ってみたら皆さんとても優しい方ばかりでした。右も左もわからない私に、色々なことを丁寧に教えて下さったんです。殺陣の指導をしてくださった方は、俳優座の加藤剛さんも指導されていた方で「俳優座なのか!」って温かく迎えてくれたり、最後別れる時はお世話になった撮影所のスタッフの方々が「また来なさいね!」ってお見送りをしてくれて、涙が出てしまいそうなほど、感謝の気持ちと喜びで想いが込み上げてまいりました。
 また太秦の撮影所に行けるように頑張ろうと、本当に心から思いました。

 あと、曾祖父の小杉勇も昔、京都に住んで撮影所に通っていたので、その京都で撮影出来るっていうのも、感慨深いものがありました。

椎名慧都さん




―――周防正行監督はどのような方ですか。


 本当に温かくて、朗らかな方です。こう、やわらかい感じで、「じゃあ、やってみようか」と、こちらにまかせてくださるかたちで撮影に入りました。ですから周りのスタッフさん達もみなさんとても明るく、和やかな空気でした。

 京都での撮影は、無声映画なので声の録音というものが無い特殊な現場だったことや、私がこれまで映画撮影の経験が無いのを周防監督もわかってらしたので、『火車お千』の撮影が終わって東京に戻ってからも「勉強のために撮影見に来ていいよ」と言ってくださって、東映のスタジオでの撮影を見せていただきました。その撮影の合間に「舞台と映像の違いはね…」と色々なことを教えてくださったりして、「周防組」は温かいと聞いていたんですけど、本当にそうでしたね。

 まだまだ未熟で、経験も浅い私が、この様な素敵な方々と、こんなにも素晴らしい機会をいただけましたこと、監督をはじめスタッフの皆さま、太秦で出会った皆さま、そしていつも私の活動を応援し支えてくれている皆さまに、心から感謝の気持ちでいっぱいです。



―――周防監督の奥様、草刈民代さんが初めてプリマに抜擢されたのが小杉太一郎さんの音楽を使用したバレエ『恋の絲 』だったというお話はされましたか。


 撮影がはじまる前に、周防監督ともそのお話をしました。
 その後、撮影現場で草刈さんに紹介していただく機会があったんですけど、周防監督がそのことをおぼえていてくださって、草刈さんにも祖父のことをお話してくださいました。



―――小杉勇さんと同じく曾祖父にあたられる活動写真弁士の山野一郎さんのお話を聞かれたことはありますか。


 『カツベン!』で弁士の指導をされている片岡一郎さんが以前、山野一郎が説明をしている録音をくださって、それで実際の声を私も聴くことができました。

 とても勉強家だったと聞いています。子どもたちに自分の知らない難しい辞書は買ってはくれないのに、舞台を観に行きたいと言うと「行って来い!行って来い!」ってお金をくれたそうです(笑)。見もの聞き物だけはお金を出してくれたという話を聞きましたね。

 『カツベン!』の脚本を担当された片島章三さんも、山野一郎についてたくさんの事を調べていて、撮影後にも色々なエピソードなど、お話をしました。

山野一郎

山野一郎
写真提供:小杉家




―――映画『カツベン!』の公開にあたり、どのようにお感じになりますか。


 チャップリンの無声映画を知っている人はいても、日本でも無声映画を撮影して上映していたことや、活動写真弁士という存在自体を知らない人はとても多いです。そんな中で、周防監督がそれらに光を当ててくださるのはすごく大きいなことだと思っています。

 活動写真弁士さんの語りは、お芝居と一緒でその場その場のライブ感がとてもあるものだと感じています。昔の弁士さんたちの録音が残っていることはあっても、映像はなかなか残っていないんですよね。だから当時の様子や、活動写真への熱というのが『カツベン!』で映像化されることで、とても伝わってくるものがあります。
 現在活躍されている弁士さんの公演を観に行くとわかりますが、同じ作品、同じ弁士さんでも毎回観るたびに違うんですよ。
  
 活動写真弁士を観たことがない友達に「無声映画に声をあてるんだよ」と言うと、最初はどうしてもアフレコ的なイメージを強く持ってしまうんですが、実際に観た時のあのものすごいライブ感に、みんなびっくりしますね。

 映画に音声がつくようになり、トーキー映画の時代になると、それまで弁士として活動していた方は仕事が無くなってしまったんですよね。山野一郎もトーキーの時代になってからは、講談や俳優として活動していましたが、最後まで「また“説明”がやりてぇな」って言っていたそうです。
 この『カツベン!』という映画ができたこと、すごく喜んでいるだろうなと思います。ですので、親族としても、『カツベン!』には言葉では言い表せないような特別な想いがたくさんあります。

 活動写真弁士というすごく魅力的な日本の文化がもっともっといろんな人に広まってほしいですね。




カツベン!






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