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『九尾の狐と飛丸』リクエスト上映記念インタビュー


清水浩之 氏 インタビュー

清水浩之氏


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―――「短篇映画研究会」は、どのような経緯ではじめられたのでしょうか。


 お話してきたような流れから日本の昔のドキュメンタリー映画のおもしろさというものに改めて気がついて、当然のことながらたくさんの作品を観たいと思ったわけなんですけど、観られない作品が非常に多かったんですね。作品をつくった映画会社も当時すでに活動をやめてしまっていたところもありましたし、簡単に観ることが出来ない。

 そういう状態の中でひとつの方法として、埼玉県川口市に「SKIPシティ」という施設があって、NHKと映文連という映画会社の団体が収蔵した日本の古い短編映画がそこに800本ぐらい入っているんです。そこに行けば映像ライブラリーの視聴覚ブースで観られるんですけど、僕が住んでいるところから川口市って遠いんですよ(笑)。うちが東京の南なんですけど、そこから川口市に行くと、行きが2時間、帰りが2時間ということでホントに半日以上かけないと観られないんですね。

 これは非常に手間がかかるなぁということで、他に方法がないかと考えたら、そういえば昔、大学のサークルとか学園祭で16oのフィルムと映写機を借りて上映会をやっていたなぁと。それで調べてみたら当時の都立日比谷図書館(現・多摩図書館)にフィルムが保管されていて、映写機を使える人を含む3人の署名があれば団体としてフィルムを借りられるんだということがわかったんですね。

 それで2005年から最初は月2回、今から思うとよくやったなぁと思うんですけど、会社が終わってから日比谷図書館にフィルムをお借りしに行って、それを神田小川町の上映会場に持って行って上映するってことをやってたんですよね。ですから年間20回以上ですね。いつ仕事してたんだろうって感じなんですけど(笑)。

 逆にいうと事前にフィルムを調べたりとか試写をして内容を調べたりすることが時間的に出来ないので省略して、ある程度わかったことだけをとりあえず情報として最初に告知しておいて、もうフィルムを借りたその日に観ますよ、という感じでやることにしたんですね。
 とりあえず最初の頃は、この日は「科学映画」とか、この日は「珍しい人が出演している映画」というようにテーマをまずつくって、該当すると思われる作品をわりと手当たり次第に上映していったんですね。ですから実際に観てみると全然思っていた内容と違うなぁということもあるんですけど、まずは内容を確認することが第一という感じで続けていきました。

 上映会をはじめようとしたのが「neoneo」というドキュメンタリー映画専門のメールマガジンができた頃なんです。ちょうど「neoneo」も「neoneo坐」という名前でいくつかの上映会をしていこうという時で、僕にも声をかけていただきまして、小川町の会場を上映会で使わせてもらえたんですね。その後はいろいろと上映会場もかわっていきました。



―――「短篇映画研究会」をはじめられた頃の反響はいかがでしたか。


 これまでみんなが手をつけなかったというか、おそらく興味を持ちづらいところが非常に多くて、一番お客さんが少ない時で2人しかいらっしゃらない時とかがあるわけですね。2人だと逆にお客さんの方が恐縮されて、「僕たちのためにすみません」と言われちゃって「いや、そんなことないです。僕が観たいからやってるんです」みたいな感じになるんですけど(笑)。本当に少ない時は少ないですし、逆にたとえば大阪万博の記録フィルムをやりますって時には「いやぁ、観たかったんです!観たかったんです!」ってすごく盛り上がってみなさんいらっしゃる時もあります。
 テーマによってすごく差があって、みんながものすごく観たがるものと、そうでないものとの差がだんだんやっていくうちにわかってきたんですが、まだわかんないところありますね(笑)。

 前にカナダの音楽家のグレン・グールドがトロントを紹介するっていう珍しい映画があって、これはおもしろいなと思って上映したんですけど、たしかお客さん5人しかいらっしゃらなかったんですよ。
 そうかと思うとバスの映画、都バスとか路線バスとかについての映画があって、これはそんなに観る人いないだろうなと思ったら、意外にバス好きの人っているんだなと(笑)。30人ぐらいお客さんが来られて「あれっ?!」ということもあったりで、テーマによって本当にみなさんの温度差がありますね。

 昔はこういう上映会は映画館に置いてあるチラシだとかで知って、みなさん来られるわけですけど、いわゆるインターネットやソーシャルネットワークが普及してくると意外な広がりをする時があって。

 最近だと『記録なき青春』(1967年 和プロ 監督:阿部孝男 音楽:伊福部昭)という広島の被爆二世を主人公にした劇映画があるんですけど、主人公が真理アンヌさん、相手役は田村正和さんなんですよ。ただ、いわゆる独立プロがつくった映画でずーっと観る機会が無かったんです。それじゃあフィルムを借りて観てみようと思ったらシネスコで、シネスコだとレンズを借りなくてはいけないので僕にとってはなかなかハードルが高いんですね。それでちょっと先延ばしにしていたんですけど、去年、思い切ってシネスコのレンズを借りて『記録なき青春』を上映するぞ!となったらさっそくインターネット上で反応がはじまりまして。
 「ちょっと真理アンヌさんに連絡します」っていう方が現れて、そしたら真理アンヌさんが「行きます」とおっしゃって、当日、真理アンヌさんがご家族でいらっしゃって(笑)。上映会場が20人でいっぱいになるところだったんですけど、お客さんが40人を超えて、会場を管理してる方に「消防法上ちょっとまずいんです!」って怒られながら上映したことがあります(笑)。でも『記録なき青春』は真理アンヌさんも「映画が出来上がって以降は観たことがない」とおっしゃっていたので、上映出来て良かったですね。

 あと、特集でいうとお話したように昭和30年代の記録映画は本当にいろんな作曲家の方々が音楽を担当していて素晴らしい仕事をされているので、一度「短篇映画研究会」でも記録映画の音楽を担当した作曲家別(芥川也寸志、宇野誠一郎、一柳慧、伊福部昭、冨田勲、山本直純、早坂文雄、池野成、越部信義、長澤勝俊、廣瀬量平、八木正生、團伊玖磨、武満徹、津島利章、石井眞木、大木正夫、木下忠司、林光、小杉太一郎、松村禎三、宮崎尚志、眞鍋理一郎、渡辺宙明、大野松雄、 間宮芳生、湯浅譲二、三木稔、中田喜直、黛敏郎、渡辺岳夫、山下毅雄)に作品を観てみようという特集をやりました。

 まあ取り上げた作品だけでその作曲家を把握するのはやっぱり難しいんですけど、ただ、こういう作曲家がこういう映画の音楽を担当していたんだっていうことを一回知るのもおもしろいなぁと思ってやってみたら、やっぱりおもしろかったですよね。
 作曲家特集には大野松雄さんご本人がいらっしゃってくださってとても驚きました。大野さんにどうでした?ってお聞きしたら「いや、忘れてた」というご感想だったんですけど(笑)、そういう予想外の方からの反響をいただくこともあるんですね。

『九尾の狐と飛丸』ポスター 短篇映画研究会チラシ


―――今回、2010年の「短篇映画研究会」で取り上げられた『九尾の狐と飛丸』をリクエスト上映されるわけですが、そもそも『九尾の狐と飛丸』を上映されたきっかけはなんだったのでしょうか。


 『九尾の狐と飛丸』の存在は、日本のアニメーションの研究書として有名な『日本アニメーション映画史』に載っていたのでなんとなく知ってはいたんです。ですけど、僕自身は前からこの作品がどうしても観たいと思っていたわけではなくて、ある時たまたま日比谷図書館の所蔵リストの中に『九尾の狐と飛丸』があるのを見て、「フィルムあるの?!」っていう感じで改めて興味を持ち出したのがはじまりですね。
 ただ、フィルムがあるってことはわかったんですけど、それまで「短篇映画研究会」は文字通り短編を優先してプログラムしていたので、長編の『九尾の狐と飛丸』を上映すると他の映画の時間が少なくなるという問題があったんですね。
 そうしているうちに2010年になって、「短篇映画研究会」も開催通算100回近くになったので、たまには長編もちょっと観てみようかなぁ、というなんとなく軽い気持ちで(笑)、上映してしまったんですね。

 『九尾の狐と飛丸』はシネスコじゃなかったのが良かったんですよね。さっきもお話したように今シネスコだと上映するのにちょっと面倒くさいなあっていう気持ちがあって先送りしちゃうんですけど、『九尾の狐と飛丸』はスタンダードだから映写機さえあれば上映できる。
 『九尾の狐と飛丸』が制作された昭和40年代はじめ頃の映画館っていうのはやっぱりシネスコが基本で、同じ年に公開されたアニメ映画の『太陽の王子 ホルスの大冒険』(1968年 東映動画 監督:高畑勲)とかもみんなシネスコなんですよね。
 ………なんでだろう?あれ?なんで『九尾の狐と飛丸』はシネスコじゃないんだろう(笑)?



―――上映後の反響はいかがでしたか。


 上映してみると「いやー、長年観たいと思っていた映画なんです!」とか「子どもの頃にテレビで観ただけで、それ以来ずーっと観れなかったんだよ」という方が想像以上にたくさんいらっしゃって。
 他にも出口さんのように「音楽:池野成」ということで音楽に着目された方、あるいは作画などのことに注目されているアニメーション関係者、あと、この映画に携わっている鈴木英夫監督、増村保造監督からこの作品にたどり着いた映画評論家・研究家、そういういろんな方々が2010年の上映会にワァーッ!!って感じでいらっしゃって、こんなにいろんな方面からの反響があるのかと驚きました。会場ぎりぎりいっぱいのお客さんでしたよね。

 『九尾の狐と飛丸』は、作品自体とてもおもしろかったですね。
 鈴木英夫監督をはじめとするベテランのリードが巧みだったこともあると思いますし、なんといっても作画スタッフが、生き生きとした魅力的な映像を作り上げていました。東映動画などで育った若手が実力をつけた、ちょうど良い時期だったのかもしれませんね。『太陽の王子 ホルスの大冒険』と比べても、遜色のない出来だと感じました。



―――今回のリクエスト上映では『九尾の狐と飛丸』と併せて『津軽のイタコ』が上映されますね。


 今回は6月から7月の月2回、合計4回の上映会をこれまでいただいたリクエストにお応えしようという特集上映なんです。

 『津軽のイタコ』っていうのは、そのまんまなんですけど本当にあのイタコの記録映画なんですね(笑)。この映画を観るときっと驚きますよ、と前々から言われていたんですけど、これまで観る機会が無かったんです。そうしたところ、いわゆる民俗学などに興味のある方からこの映画のリクエストをいただいたので、それではこの機会に上映しようと。それで何と組み合わせようかなぁと考えたんですけど、それじゃあ同じくリクエストをいただいていた『九尾の狐と飛丸』かなと(笑)。

 それぞれの作品に興味を持たれている方の方向性が全然違う2本になってしまった気もするんですけども、記録映画とアニメーションを一緒に観るというのもおもしろいと思うんですよね。
 「ゆふいん文化・記録映画祭」では、プログラムごとにそれぞれまったく違う興味を持つお客さんが集まってくるんですけど、お目当ての作品を観たら、せっかく来たのだからとすぐには帰らず、その前後の上映プログラムをついでに観ていく方もいらっしゃって。いろんな映画を組み合わせると意外と良いんだなってことに気づいたところがあったんです。
 『津軽のイタコ』『九尾の狐と飛丸』のどちらもこういう機会でないと観るチャンスが無いといえる作品なので一緒に上映することにしてしまいました。『津軽のイタコ』だけでは来ない方とか『九尾の狐と飛丸』だけでは来ないという方も一緒に観ると、良いのかもしれないし、良くないのかもしれないし(笑)というところですね。




清水浩之 氏 インタビュー (1)/(2)





『九尾の狐と飛丸』2016年7月24日(日)・25日(月)上映。


作曲家 池野成 研究活動





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