私たちと「双輪」との出会いは楽譜からでした。
今年初め、次のリサイタルのプログラムをあれこれ考えていたとき、ふと手元にあった楽譜「伊福部昭 小杉太一郎 箏曲二題」に収録されている「双輪」をギターで弾いてみました。その時、あたかも津軽三味線がギターに乗り移ったかのような演奏上の爽快感とともに、東北の自然の厳しさと、そこに生きる生命の逞しさのようなもの作品から想い起こし、すっかり夢中になってしまいました。
ふつうギター曲以外をギターで演奏する際は、曲に応じた編曲作業を行いますが、「双輪」の場合、作曲者の書かれた音をほぼそのまま演奏することが可能です。ギターに合うよう調を変えてみましたが、指使いに全く無理がなく全曲が弾けてしまい、まるでギターで演奏することを想定して作曲されたのではないかと思えるほどでした。
ギターは楽譜に書かれた音よりも1オクターブ下が鳴る「低音楽器」ですので、箏で弾かれる「双輪」とはまた違った印象に聞こえると思います。もとより箏独特の様々な技法をすべてギターで再現するのは不可能です。その反面、ギターでしか出せない技や味わいを積極的に取り入れたいと考えています。
箏曲として完成された作品を前におこがましいことではありますが、ギターで演奏するからには、箏とは違う新たな「双輪」の魅力を発見し引き出すことが私たちの使命だと思います。編曲作品を演奏する際いつも心がける事ですが、単に「ギターでも演奏できました」で終わるのでなく、「双輪ギター二重奏版」独自の存在価値を聴いた方に感じて頂けるよう、作品と向かい合っていこうと思います。
最後になりましたが、「双輪」の楽譜が世に出ていなければ、私たちがこの曲を知ることはありませんでした。この曲の出版に尽力され、またギターで演奏することをご快諾いただきました関係者の皆さま、五線譜化を成し遂げられた石丸基司様、なによりもこの素晴らしい作品を生みだしてくださった小杉太一郎先生に深く感謝申し上げます。
デュオ・ウエダ
上田 英治