小杉太一郎氏の唯一の邦楽作品、箏曲「双輪」は1975年、箏曲家 山田節子氏の委嘱により作曲されました。
作品名の「双輪」とは作曲過程における小杉氏、山田氏との試演を交えた打ち合わせでの“箏の転がるようにスピーディーに展開されるメロディーがとても面白い”という話が基となり、第一箏・第二箏それぞれから紡ぎ出される音響を「輪」と想定し命名されました。
また、「双輪」の楽想について小杉氏は「“津軽三味線”をイメージした」と語られていたとのことです。
奏法・調弦などについての研究を活かし、「双輪」の原譜は箏曲古来からの記譜法である「糸譜」によって記されています。
「双輪」作曲当時の小杉太一郎氏
(写真提供:小杉家)
「双輪」表紙(左)と一頁目(右)
作曲完成後、箏曲「双輪」は山田氏、また、氏が主宰されている「沙羅の会」等でこれまで演奏が重ねられてきました。
また、「双輪」委嘱者である山田節子氏は、1976年、世間に“横溝正史ブーム”を巻き起こした火付け役的作品として知られる角川映画第一回作品「犬神家の一族」を初めとし、これ以後、市川崑監督作品に「邦楽監督・箏演奏」として携わられています。
「犬神家の一族」では、「映画の前・後半部に使用する箏曲を」という要望に対して小杉太一郎作曲 箏曲「双輪」を演奏し、使用されています。
同時にこの時、市川崑監督は「双輪」がひどく気に入り、以降の映画作品内で箏曲が必要な時には、「それじゃあ『双輪』をお願いします」の指名が繰り返えされました。しかし、あまりに「双輪」が続くため、ある時期を境に敢えて別の曲を使用するようになったというほどです。
以上の経緯から箏曲「双輪」はこれまで「古都」(1980/東宝/主演:山口百恵)の“御茶屋のシーン”、「竹取物語」(1987/東宝/主演:沢口靖子)“宮中での歌詠みのシーン”等の市川崑監督作品内で使用されてきました。
劇中ごく僅かな時間の楽曲使用であることも関係し、これらの映画で「双輪」の名がクレジットされることはなく、使用されているという事実も知られることはありませんでしたが、その実、これまで極めて多くの人々が箏曲「双輪」を耳にされていたのでした。
※ 五線譜版「双輪」のご購入はこちらをご覧下さい。