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浦田健次郎Salidaインタビュータイトル
浦田健次郎Salidaインタビュー

浦田 健次郎 氏 略歴




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―――浦田先生が池野成先生のことをお知りになったのはいつ頃なのでしょうか。


 僕が二十歳ぐらいの頃だったか、新聞にヨットが遭難したっていう記事が出てたの。そこに「池野成」と書いてあって、名前の下に「作曲家」って書いてあってね。作曲家にこういう人がいるんだと思って。三宅島かどこかで開催されたヨットレース中のことだったみたいだけど、それが池野先生のことを知った最初(笑)。



―――池野先生に初めてお会いになったのは、どのような経緯からですか。


 僕が親しくしている声楽家がいて、たまたまその人が池野先生の御家族と仲が良かったんだよね。
 ある時、その声楽家の家に行ったら、池野先生の御家族の方もいらっしゃって、それがきっかけで池野先生ともお会いすることになった。初めてお会いした時、ヨットの遭難のことを聞いてみたら「そうです」って(笑)。

 その頃の思い出があってね。当時、僕は極貧で自分の机も持ってなかった。ちゃぶ台みたいなのが一つあるきりで、それで飲み食いしたり、仕事する時にはまず上に乗ってるものを全部かたづけてから使うわけね。そんな状態だったから、高さや天板の角度を調節出来る「製図用の机」ってあるでしょ。あれは楽譜を書く時に便利だから、何気なしに「あの机が欲しい」なんて話を池野先生にしたんだよね。そしたらね、何日か経ったら池野先生が僕に製図用の机を買って送ってくれたんですよ。もう嬉しくてね。以来その机でずっと作曲してた。



―――黛敏郎さんが武満徹さんにピアノを贈った話は有名ですが、池野先生は浦田先生に机をプレゼントされていたのですね。


 そうそう(笑)。
 だけど、そんなしょっちゅう会うわけでもないし、池野先生と音楽上の話、たとえばラマ教の音楽について何か話をしたっていう記憶も無いんだよね。
 でも、 僕の作品が演奏されるコンサートがある時、池野先生に御招待の案内を出すと必ず来てくださった。



―――池野先生の印象はいかがでしたか。


 もう丁寧で丁寧で(笑)。こっちが恐縮しちゃうぐらい。 だけど、時々けっこうキツイことも言われるけどね。



―――1977年に松村禎三さんがプロデュースされた演奏会「現代の音楽展77」で浦田先生の《メロスU》が改訂初演、池野先生の《EVOCATION》が初演されているので、その時初めてお会いになられたのかと個人的に思っていたのですが、実際はもっと前からお会いになっていたのですね。


 ただ、その頃は「映画の音楽を作曲している方」ということでしか知らなかった。それでも人づてにオーケストレーションの上手い人だっていう話は聞いてましたけどね。
 だから《EVOCATION》が初めて聴いた池野先生の純音楽作品。独自の音楽だよね。一つのモチーフが有って、それが色々と展開して最後に向かっていくというのが、いわゆる古典以降の西洋音楽のスタイルでしょ。そういう西洋音楽的な思考・論理を拒絶してる。

 最初は《EVOCATION》になんでトロンボーンが入っているのかよくわからなかった。そしたら、出口さんが制作された池野先生のCDの中で評論家の片山杜秀さん、あの方が「人の声」ということを言われていてね。そうかぁと思って。あれはトロンボーンで音楽をやるんじゃなくて、「叫び」だよね。人の声、それも男声の叫び。それであのトロンボーンの使い方が理解出来た。
 トランペットだと高すぎるし、低く吹いたら別のイメージになっちゃうでしょ。テューバもちょっと低い。ホルンでもいいかもしれないけど、ちょっと音が柔らかいからね。だから削っていくとどうしてもトロンボーンしか残らないっていうところもあるし、そういう意味でもあの曲ではやっぱりトロンボーンが一番いいんじゃないかな。

 あと、印象的だったのが、池野先生が何書いてる時だったかなあ、ヴァイオリンコンチェルトだったかなあ。太鼓をね、どれを使うかさんざん悩んでるんだよ。気に入ったアフリカの太鼓が2種類あってどっちにしようかって。
 池野先生は打楽器を単なるリズム楽器とかアクセント楽器という扱いをするんじゃなくて、非常に重要な楽器として、音の高さ、使う撥や叩き方とかを全部考えてるでしょ。だからああいう池野先生独特の響きが生まれる。

 こういう話を池野先生と直接したことはまったくないんですよ。ほんとはしとけばよかったんだけどね。


Salida制作CD「池野成の純音楽」を愛聴してくださっている浦田健次郎先生。

Salida制作CD「池野成の純音楽」を愛聴してくださっている浦田健次郎先生。






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