東京交響楽団公演「現代日本音楽の夕べシリーズ 第18回 早坂文雄 没後60年コンサート」。
作曲家 早坂文雄の没後60年にあたる2015年10月に開催された本公演では、黒澤明監督作品『羅生門』の映画音楽《真砂の証言の場面のボレロ》をはじめ、《交響的童話「ムクの木の話し」》、《交響的組曲「ユーカラ」》、これらの早坂文雄が遺した重要な作品が演奏されました。
映画『酔いどれ天使』を皮切りに『野良犬』、『生きる』、『七人の侍』、『生きものの記録』等々の作品で日本映画に一石を投じた伝説的コンビとして知られる黒澤明監督と作曲家 早坂文雄。
中でも 『羅生門』(1950)は、第12回ヴェネツィア国際映画祭で金獅子賞を受賞するなど、黒澤明と早坂文雄の名を一躍世界に知らしめると同時に戦後日本映画作品に国際的名声を与えました。本編で、多襄丸(三船敏郎)によって自分は暴行されたと主張する真砂(京マチ子)が、次第に陶酔感に溺れ高揚していくシーンにたいして、黒澤明監督は「ラヴェルの《ボレロ》のような音楽」を要求し、早坂文雄は《真砂の証言の場面のボレロ》の作曲によって、このむずかしい試みに応えます。
セル・アニメーションと実写の結合による独自な表現を用いた"造形技術映画"『ムクの木の話』(製作:東宝教育映画部)。
セリフ・効果音がいっさい無く、音楽がそれらに代わる音響的演出を行いながら映像と共に物語を展開していく本作を、早坂文雄は自身の音楽語法を総動員した音色的創意に富むサウンドで彩りました。映画音楽の仕事で培われた早坂文雄の直感とオーケストレーション技術の妙味を存分に味わうことが出来ます。
早坂文雄が、その短い生涯の晩年にあたる1950年代に自らの創作態度について主張した『汎東洋主義(パンエイシャニズム)』。
「単純性」「無限性」「非合理性」「植物的感性」「平面性」の5つに要約される日本的特性と二十世紀の音楽様式との結合を足掛かりとして、東洋音楽の新しい様式を考えなければならないとする『汎東洋主義』の探求過程で《交響的組曲「ユーカラ」》は作曲されました。
金田一京助『アイヌ叙事詩 ユーカラ』(岩波文庫)を題材に同書より選んだ五篇に序奏をつけ、「交響的組曲」としてまとめられた本作は、それまでの早坂作品とは一線を画する音楽語法が用いられており、早坂文雄の新しい境地を示す作品として知られています。
早坂文雄の純音楽作品の遺作となった《交響的組曲「ユーカラ」》は、日本音楽史上における重要作ながら、これまでその演奏が音盤化されたのは、たった一つのコンサート録音のみという不当な状態にありました。
本企画では、この状況を打破すべく、指揮者 大友直人氏より御快諾をいただいたうえで、かつて《交響的組曲「ユーカラ」》を委嘱・初演した東京交響楽団によるすばらしい演奏音源のCD化を実現。
「作曲家 早坂文雄」を今一度見つめ直す必聴盤の誕生です。