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生明慶二 インタビュー


(9)

ハンマーダルシマー




―――生明先生といえば、ハンマーダルシマーを抜きには語れないわけですが、そもそもダルシマーとの出会いは日本テレビの開局10周年記念番組がきっかけだそうですね。


 あぁ、そうそうそう。

 開局10周年っていうんでシルクロードとか中央アジアについての記念番組を日本テレビがつくったんですよ。その時に番組のディレクターが中央アジアのダルシマーを買ってきた。
 それを伊部ちゃん(伊部晴美)がですねぇ、弾こうとしたんですよ。その番組の音楽は伊部ちゃんが作曲してたから、テーマ曲をダルシマーで演奏しようと思ったんですね。
 ところが、「弾けねぇ!!」ってわけ。そしたら伊部ちゃんがね、僕に「おめぇ弾け」って言うんだよ(笑)。しょうがないからやってみたんだけど、もう難しくてとても弾けないわけですよ。
 それで結局、どうにか上手く弾けたところの録音テープを切り貼りしてつなぎ合わせて(笑)、なんとかテーマ曲をつくったんです。もう1960年の初めの頃のことだから古い話だねぇ(笑)。

ハンマー・ダルシマー準備(1) ハンマー・ダルシマー準備(2)
ハンマー・ダルシマー準備(3) ハンマー・ダルシマー準備(4)
ハンマー・ダルシマー準備(5)


映画『犬神家の一族』(1976年 監督:市川崑 音楽:大野雄二)テーマ曲《愛のバラード》
TVドラマ『非常のライセンス』(音楽:渡辺岳夫)テーマ曲

 などで演奏されたハンマーダルシマー実物を本取材のために御用意くださいました。



 それからしばらくは自己流でダルシマーを弾いてたんだけど、やっぱりよくわかんないんですよ。

 そうしたところがモーリス・ジャールというフランスの作曲家が、来日公演をする時にダルシマー奏者を一緒に連れて来たんです。
 フランスだとダルシマーはシャンソンにもよく使われてるポピュラーな楽器なんだよね。それでそのダルシマー奏者に調弦の仕方から何からいろいろと尋ねて教えてもらって……、そしたらある時突然理解出来たね(笑)。
 つまり、鍵盤や音階の概念を変えないとだめだってことですね。でも「理解出来た」って言っても演奏するとなるとありゃあ、やっぱりこわいよねぇ。

 ヴィブラフォンだったらね、もう鍵盤見なくたって弾けるわけですよ。ダルシマーはねぇ、そうはいかないですよ。体が少しでも動いたり、スタジオの電気の加減でちょっと影がかかっただけで、叩く弦がどれだかわかんなくなっちゃうんですよね。演奏する時のライティングにものすごく神経をつかうんです。

 自分で練習してる時には弾けても、録音の現場で間違えたら当然最初から録り直さなくちゃいけないんで、もうみんなから総スカン。「なにやってんだ!」って怒鳴られますからね。すごく厳しい世界なわけ。今だったらダルシマーだけ演奏して後からかぶせるってことも出来ますけど当時はねぇ。
 ああいう楽器だから間違えて隣の弦を叩いちゃう時だってあるわけで、それで間違えるとまた周りからすごいイヤミ言われたりするんですよね。そういう意味じゃ、よっぽど自信がないと出来ない楽器です。

ハンマー2種

ダルシマーの弦を叩くハンマー2種。


ハンマー(細)

ハンマー(細)。繊細な弱めの音になる。

※再生ボタンクリックで音声を御聴きいただけます。




ハンマー(太)

ハンマー(太)。芯のある強めの音になる。




 ある時、テレビの生放送でダルシマーを弾けってことがあってねぇ…。全国放送の番組だったから間違えたら日本中で聴かれるわけですよ(笑)。そのこわさっていったらねぇ。そういう経験があるもんだから僕なんかはまだもつんでね。普通だったらなかなかもたないですよねぇ。

 『犬神家の一族』の《愛のバラード》だって、レコーディングしててあと残り8小節ぐらいになってくると、弾きながら「オレここで間違ったらどうしよう……」っておそろしくなりましたよ。スタジオの録音にこれだけ慣れててもあれは本当にこわい。

TBS「ベストテン」中継


 他にもたとえばこれはTBS「ベストテン」の中継で演奏してる写真ですね。長野県だったか、すんごい寒いところで演奏させられたんだよ(笑)。



―――ダルシマーの見た目がコダーイの《ハーリ・ヤーノシュ》で使われる「ツィンバロン」に似ていると感じるのですが、やはり違うものなのですか。


 ダルシマーはツィンバロンよりも古いんですね。
 ツィンバロンというのはダルシマーに比べたら非常に新しくて進化した楽器なんです。近代的に非常に弾きやすくつくられている。逆にいうとダルシマーってのは本当に原始的なもので、非常に弾きやすくないんです(笑)。だから困るわけですよ。
 1980年代によく中国に行って揚琴(ヤンチン)をいっぱい見て来たんですけど、あっちでは揚琴を「携帯洋琴(ピアノ)」って呼ぶんですよ。まだ中国にピアノを作る技術が無かった頃は揚琴がピアノの様に機能していたんだと思います。持ち運びが出来て非常に便利に使える。ピアノっていうぐらいだからやっぱりこれも新しい楽器なんですね。

 ダルシマーにもまぁ色々あるんですけど、細かくいうと現在「ハンマーダルシマー」って呼ばれてる楽器は、もう一段階進化した楽器で、柱をひとつ増やして弾きやすくしてある。だけど僕が弾いてるのはほんとに最初のやつだから弾きにくい。



―――それは、日本テレビ開局10周年記念番組でディレクターが買ってきたダルシマーのことですか。


 いや、違います。日本テレビのは今からすれば本当にもういわゆる「おみやげ品」ですよね。その後、ちゃんとしたものを東京で手に入れました。

 あと、インドへ行った時にサントゥール(インドの楽器名)作りの名人、すげぇー上手いのが一人だけいるんですよ。その人に1年間予約して作ってもらいましたね。
 インドっていってもダルシマーはインドの古典楽器というわけではないんです。本来はもっと山岳地帯の方の楽器なんで、それをいくら上手く作れてもインドではなかなか認められなくて、ずいぶん冷遇されていた人なんですよ。 
 でもその上手さっていうのは普通じゃないんでね、感銘を受けて「楽器売ってくれ」って言ったんだけど売ってくれないんですよ。それでも頼みこんだら「1年後に取りに来い」と言われて作ってもらえたんですね。

ハンマーダルシマー演奏

数年ぶりに向かい合うダルシマーでの即興演奏を披露してくださいました。





※ ハンマーダルシマーの詳細については「ハンマーダルシマーとは」も併せて御参照ください。






「生明慶二 インタビュー」

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